調香師
公開日
2021.12.22

調香師とは、数多くの香料を組み合わせることで、クライアントの求める香りを創り出す香りのスペシャリストです。

化粧品、香水、シャンプー、洗剤、芳香剤のような口に入れないものの香りを調合する専門家は「パフューマー」。食品、飲料、酒類、歯磨き粉のような口に入れるものの香りを扱う専門家は「フレーバリスト」。

「調香師」という職種はあまりなじみがないかもしれませんが、私たちは普段、何かしらの香りに囲まれて生活しています。

リラックスできる香り、美味しさを届ける香り、心地よい香りなど種類もさまざま。食品や生活必需品だけでなく、身の回りのあらゆるもの・空間に「香り」が求められるようになり、調香師の活躍の場は今後ますます広がっていくでしょう。

ここでは、香りという目には見えない繊細なものを扱うことで、私たちの生活に彩りを与えてくれる「調香師」という仕事について、詳しく解説します。

評価・満足度

総合評価 3.0
平均年収
425万円
最高年収
1,000万円
やりがい
3.0
給与・年収
3.0
専門性
3.0
将来性
3.0
休日・待遇
3.0

調香師の主な仕事内容

主に香料関連会社や食品メーカー、化粧品メーカーで研究職・技術職として勤務している調香師。

具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。以下に調香師の仕事の流れを紹介します。

クライアントからの依頼

まず、クライアントから香りの作成依頼を受けるところからスタートです。クライアントが必要とする製品に対して、コンセプトを明確にし、それに沿った香りをイメージします。

基本的には営業担当がクライアントの開発担当者から依頼を受けることが多く、調香師は営業担当を通じてクライアントの意向を聞きます。営業担当と香りについてのイメージのすり合わせ・共有が必要とされるため、調香師と営業担当のコミュニケーションも重要になるでしょう。

処方箋の作成

クライアントの必要とする香り、目的にあった香りを創り出すために、繰り返し匂いを嗅いで、研究を重ねます。

クライアントの意向に沿った香りを創り出すために、数千種類もあると言われている香料の中からどれを使用するか、調合の割合はどうするかを決め、処方箋を作成するのです。

香料の調合

作成した処方箋をもとに香りを調合します。コンセプトに合った香りであるか確認するのはもちろんですが、安全性は確保されているか、香りが長持ちするか、他の香りとの相性はどうか、香りの強さは適当か、などさまざまなことに考慮する必要も。

クライアントの要望通りの香りが創り出せるまで処方箋を作り変えたり、何度も調合をし直します。

クライアントに香料を提出

あらかじめ決まっていた納期に合わせて、クライアントに香料を提出。

営業が提出しますが、場合によっては試作品を持参したり、調香師が同行して説明したりすることもあります。

採用されたら生産開始

クライアントが香りを評価し、採用されたら生産開始です。採用されてからも、改良や調整が入ることも。

香りを作る、というとアーティスティックなイメージがありますが、細かい調整が必要な地道な作業の繰り返しであり、香料を混ぜ合わせることでどんな反応があってどんな香りになるのか、といった実験の積み重ねなのです。

調香師の年収

調香師は、香料関連会社や食品メーカー、化粧品メーカーといった一般企業で働くことが多いため、年収はその企業に準じます。

調香師は、研究職または技術職扱いとなるため、日本の労働者の平均年収と比較すると高めの年収です。大手企業の研究職となると年収700〜800万円という人もいます。

調香師は一人前になるまで10年かかる職業とも言われており、コツコツと経験を積むことが重要。企業によっては開発手当がつくことや、他の調香師をマネジメントする立場となって役職手当がつくこともあるでしょう。

また、調香師として独立して活躍する人もいます。技術力はもちろん営業力や経営力も必要になりますが、独自のブランドを立ち上げて成功し、中には1,000万円以上稼ぐ人もいるのです。

調香師の仕事は、自分の嗅覚やセンスに加えて、地道な努力、そして着実に経験を積み実力をつけることで、安定した年収、そして年収アップも見込める職業と言えます。

調香師に求められるスキル

香りのスペシャリストと呼ばれる調香師。いったいどんなスキルが求められるのでしょうか。

嗅覚と記憶

調香師は第一に、自分の嗅覚を使う仕事。そのため嗅覚が最も重要であり、同時に一つひとつの香りを記憶しておく能力も欠かせません。調香師は数千種類もの香りを嗅ぎ分ける必要があるのです。

持って生まれた嗅覚だけでなく、地道に訓練することで嗅ぎ分けられるようになると言われています。そしてその数千種類もの香りをそれぞれ記憶し、香りを組み合わせ、新しい香りを生み出すのです。

柔軟な発想力

調香師は柔軟な発想力が求められる仕事。さまざまな製品における香りや、あらゆるコンセプトにマッチした香りを創り出さなければなりません。

例えば化粧品やシャンプーであっても、同じ香料ばかりを使用するのではなく、常識にとらわれずに新しい香りを産み出すことが求められるのです。時に意外な香料を使うことで香りが良くなったり、人気商品が生み出されたり、それが調香師の個性となることもあるでしょう。

調香師は、常に新しい香りを創り出すために柔軟な発想力が求められるのです。

自己管理能力

調香師には、嗅覚を研ぎ澄ませておく必要があるため、体調管理が必要不可欠。風邪を引いていたり、疲れていたりすると、正常な嗅覚でなくなり仕事に支障をきたします。常にベストな体調を心がけ、風邪や花粉、食べ物などにも注意を払う必要があるのです。

また、繰り返し匂いを嗅ぎ続ける仕事であるため、微妙な違いすらも嗅ぎ分ける地道な訓練も必要に。そのため精神力も必要になるでしょう。

調香師とは、自分の体調と心の管理を大前提とする自己管理能力が求められる職業なのです。

調香師に役立つ資格・スキル・経験

調香師になるための国家資格や公的資格はありません。ただし、持っていると役立つ資格や知識は存在します。

ここでは調香師になるために役立つ資格を紹介しましょう。

日本調香技術師検定

日本調香技術師検定は、調香の基礎知識と技術が学べる民間資格です。2010年からスタートした新しい資格で、日本調香技術師検定協会が主催。日本フレーバー・フレグランス学院が養成スクールとして認定されています。

コースは、フレーバーコースとフレグランスコースの2種類。筆記試験と実技試験で構成されており、それぞれ1級・2級・3級があります。受験資格は特になく、誰でも何級からでも受験可能です。

日本調香技術師検定を取得しておくことで、調香師を求める食品、化粧品、香料業界に就職・転職するのに有利になるでしょう。

臭気判定士国家資格

臭気判定士とは、企業や施設から出るさまざまな臭気を測定するための資格。においの測定には、機器を使用する測定法と人の嗅覚を用いる嗅覚測定法の2種類があります。臭気判定士は、臭気判定法を使用するために必要な資格で、臭気環境分野で唯一の国家資格です。

受験資格は、18歳以上で学齢・実務経験は不問。受験内容は筆記試験と実際に嗅覚を試される実技試験とで構成されています。資格取得のためには、参考図書を利用して独学で学ぶ人もいれば、講習会に参加する人も。

臭気判定士は嗅覚に関する知識やスキルを取得できるため、香りのプロフェッショナルである調香師にとっても役立つ資格と言えるでしょう。

薬剤師国家資格

薬剤師国家資格は、健康や治療のために薬剤を処方するための資格です。薬剤師の資格を取得するためには、薬学系の大学で6年間学んだ上で、薬剤師国家試験に合格する必要があります。

薬剤師の資格取得後は、薬局や病院に勤務する人も多いですが、食品メーカーや化粧品メーカー、香料関連企業で活躍する薬剤師もいます。そのため薬剤師資格は、食品・化粧品業界に就職する際に大きな武器になるのです。

また、薬学や化学の知識は調香師が扱う香料にも関連性が高いため、役立つことも多いでしょう。

しかし薬剤師国家資格は難易度も高く、長期的に幅広く勉強する必要があります。そのため、薬剤師資格を取得してから、調香師を目指す人も。

調香師として将来独立したいと考えている人は、会社に薬剤師を置くことが法律で定められています。そのため薬剤師国家資格は、調香師が活躍できる企業への就職や、調香師として独立する際にも役立つ資格と言えるでしょう。

調香師の仕事の厳しさ

調香師の仕事を辞める人は少ないと言われています。しかし調香師の仕事にも大変なこと・厳しいこともあるのです。ここでは、調香師の仕事ならではの厳しさについて解説します。

正解がない大変さ

調香師の仕事には決まった正解やゴールがありません。クライアントの求める香りを創り出すために研究を重ね、試行錯誤する必要があります。

調香師の訓練を重ねた嗅覚や、芸術的なセンスで自信を持ってすすめられる香りであっても、クライアントがオッケーを出さなければ採用されないのです。

香りは言葉や数値で表しきれない難しさがあります。何もないところから創り出す大変さもあるでしょう。似通った香りではなく、オリジナリティを求められるつらさも。納期が近くなったり、複数の依頼を同時に扱ったりする場合には、残業が続くこともあります。

調香師の仕事は正解やゴールがなく、それでもクライアントの求める香りを追い求めなければならない大変さがあるのです。

地道な作業の繰り返し

調香師の仕事は、化粧品や食品、日用雑貨の香りや香水を作るという華やかなイメージがあります。しかし実際の業務は地道な作業の繰り返し。

天秤を使用して原材料と水を混ぜ合わせ香りを評価し、また別の原材料を足したり、水を加えたり。こういった地道な作業をひたすら繰り返すことで、クライアントの要望にマッチした香りを創り出すのです。時には単調で地味な仕事と感じることもあるでしょう。

調香師の仕事には、集中して細かい作業を繰り返すつらさ、地道にコツコツと手作業をする大変さがあるのです。

体調管理の大変さ

調香師の仕事は嗅覚を最大限に利用するため、体調管理が欠かせません。風邪を引いていたり、疲れていたり、寝不足だったりすると、嗅覚が鈍るため仕事に大きく影響します。刺激の強い食べ物にも注意が必要でしょう。

納期が迫っていて残業が続くような時期もありますが、可能な限り規則正しい生活を心がけ、プロとして体調管理を徹底する必要があるのです。

普段から多くのにおいを嗅ぎ続ける大変さもあり、体力的にも精神的にも大変な仕事と言えます。

調香師に向いている人

公的資格や学歴がなくても目指せる調香師。では、どのような人が調香師に向いているのでしょうか。

香りが好きな人

調香師にとって、香りが好きであることは一番大切な要素と言えます。一日中香りを嗅ぎ続けることもある調香師の仕事。香りを嗅ぎ分けるスキルが必要なだけでなく、香りを嗅ぐこと自体が好きでなければ続けられないでしょう。

また、一人前になるのに10年かかると言われている調香師。その間、数千種類にも及ぶ香料の香りを覚え、それでも調合の比率や他の香料が混ざることで香りは変わるため、無限とも言える香りを扱い訓練します。

調香師とは、香りが好きで、さまざまな香りに興味を持てる人が向いている職業なのです。

時代のニーズに敏感な人

香りにもその時代ごとの流行やトレンドがあります。現代ではどのような香りが好まれ、どのような香りが人気なのか、敏感に察知し、柔軟に取り入れられる人が調香師に向いているでしょう。

自分の好きな香りだけを作っていられる調香師はほんの一握り。多くの調香師が、日々移り変わる香りの流行や、新しい香料を柔軟に取り入れる必要があり、時にそれをクライアントに提案することが求められるのです。

発想力のある人

発想力のある人は調香師に向いていると言えるでしょう。クライアントから依頼された香りのイメージから「どんな香料を使えばイメージに合った香りが創り出せるか」「どの香料とどの香料を組み合わせればターゲットに受け入れられる香りになるか」など、想像を巡らせながら香りを創り出すのです。

普段の生活の中で、身の回りにあるさまざまな香りに対しても敏感で、そこから新しい発想を生み出すことも大切。そのため調香師は、想像力豊かで発想力のある人に向いている職業なのです。

調香師なるには

ここでは、調香師になりたいと考える人に向けて、どうすれば調香師になれるのか詳しく説明します。

理系の大学へ進学する

調香師に決まった学歴は必要ありませんが、理系の大学を出た人を研究職として採用するケースが多いとされています。その理由としては、香料が化学系・薬学系の知識と関連があるため。

理系の大学で化学や薬学の基礎知識を学んでから、食品・化粧品・香料関連企業に技術職・研究職として就職し、調香師を目指す人が多いのです。

専門学校で学ぶ

香料や香りについて学べる専門学校も存在します。食品のフレーバーや香料、フレグランスなどについて学んだり、化粧品の開発・分析のコースがあったり、実験をメインにしている専門学校も。

専門学校を卒業後に香料メーカーへと就職する人も多くいます。専門学校の内容は、長期間かけて学ぶ講座や短期間で学べるコース、趣味として1日で学ぶ講座などさまざまです。

留学する

本場パリで調香を学ぶために留学するのも一つの選択肢。フランスには多くの調香学校があり、本場のカリキュラムとフランスの香料を使って学べます。

世界的に有名なパフューマーを排出している学校や有名な日本人調香師が運営している講座も。日本で学んでいては知り得ないような本場の知識や技術を身につけ、感性も磨ける貴重な機会となるでしょう。

また、留学して学ぶためには英語やフランス語など語学力が必須。最低限、日常会話ができるレベルは求められます。調香師として海外留学を目指すのであれば、あらかじめコミュニケーションがとれるだけの語学力を身につけておく必要があるでしょう。

調香師のキャリアパス

晴れて調香師として働くようになると、その後はどのようなキャリアパスを描くのでしょうか。

調香師という職業は、キャリアアップのために転職を繰り返す人も多くなく、離職率も少ないと言われています。それは、調香師がまず一人前と呼ばれるまで10年ほどかかるというのが理由の一つ。

一人前の調香師になるために、数千種類もの香料を把握して特性を理解し、先輩の調香師から学び、講習会に参加することもあります。香料の組み合わせや調合を学び、訓練を重ねて、やっと一人前の調香師になれるのです。

本場フランスやヨーロッパ各国の調香学校に留学して技術を磨く人もいます。もちろん他の香料関連企業やメーカーへ転職する人もいますが、研究職であるため、じっくりと一社で仕事に取り組む人も多い調香師の仕事。

所属する企業にてマネジメントや役職者へとキャリアアップする人もいます。中には独立して独自のブランドや企業を立ち上げる人も。調香の本場で学ぶためにと留学して海外で働くことを目指す人もいるでしょう。

最近では香りを用いてホテルやショップなどの空間をコーディネートしたり、身近な生活の中でも癒しを求めて香りが注目されたり、最先端の医療・治療に利用されたりと、調香師に求められる役割も増えています。

香りは、リラックスできたり集中できたり心地よくなったりと効力も無限大。調香師は、人々の生活を豊かにし、華を添えるために研究し続ける、可能性あふれる職業と言えるでしょう。

評判・口コミ

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