行政書士
公開日
2022.01.21

行政書士

行政書士とは、行政に提出する申請書類の作成や行政手続き、法的な相談に応じる法律の専門家。「身近な法律家」とも呼ばれる行政書士は、行政書士法に基づく国家資格であり、業務範囲が広いことが特徴です。

行政書士が扱える手続き書類は、1万種類を超えると言われています。企業が必要とする法的書類を経営者や責任者に代わって作成したり、申請手続きを代行したりするのが行政書士の仕事。例えば、新しく事業を始める時の営業許可、企業と取引を始める際の契約書の作成、法人の設立などが挙げられます。

他にも、相続の手続きや遺言書の作成、外国人が日本で暮らすための手続き、自動車の登録や名義変更、離婚の書類作成といった人々の暮らしに密着した業務も行政書士の仕事です。

行政書士は、あらゆるビジネスシーンにおいて活躍するのはもちろん、私たちの日常生活を支える心強いパートナーと言えるでしょう。

評価・満足度

総合評価 3.0
平均年収
600万円
最高年収
1,000万円
やりがい
3.0
給与・年収
3.0
専門性
3.0
将来性
3.0
休日・待遇
3.0

行政書士の主な仕事内容

業務範囲が広いと言われる行政書士。具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。

書類作成業務

行政書士の主な仕事内容は、官公署に提出する書類を作成することであり、行政書士にしか認められていない「独占業務」です。

  • 官公署に提出する書類の作成
  • 権利義務に関する書類の作成
  • 事実証明に関する書類の作成

官公署に提出する書類とは、建設業を始める際に提出する「建設業許可申請書」、飲食店を始める際に必要になる「飲食業営業許可申請書」などです。他にも医療法人設立許可申請書、酒類販売業免許申請書などさまざまな種類の書類があります。

権利義務に関する書類とは、権利の発生や消滅を主張するための書類です。例えば「貸貸借契約書」や「請負契約書」などの契約書類や、「遺言書」の作成も含まれます。

事実証明に関する書類の作成とは、社会生活に関わる事項を証明するための書類。例えば、車庫証明などで使う見取り図や株主総会議事録、決算書類、交通事故調査書などです。本人も作成できますが、行政書士が作成することで、より公正で客観的な事実であることが証明できます。

申請業務

行政書士は、依頼人に代わって書類を官公庁に提出する代理申請ができます。提出書類を作成し、申請に必要な証明書を収集したら官公庁に申請。書類に問題がなく、申請許可がおりたら依頼人に報告して完了です。

ただし、行政書士が代理人として行える業務は、書類の作成と相談・提出のみ。依頼者の代理人として相手と交渉を行うのは弁護士法に抵触し、罰則の対象になります。

相談業務

行政書士の仕事には、相談業務が挙げられます。書類作成依頼の際に、相談も一緒に行うことがほとんど。

例えば、依頼人が抱えているトラブルに対して法的なアドバイスをしたり、相続手続きに関する相談をしたり、お店や会社を始める時にどうしたらいいか、どうしたら許認可がおりるか、などの一連の相談です。個人レベルの相談から、企業の経営、法務の相談まで幅広く対応します。

また、新規ビジネスに関する提案をしたり、トラブルの相談を単体で請け負ったりと、コンサルティング業務を専門とする行政書士も増えてきました。書類作成や申請が目的ではなく、法的・財務的な知識を活かしてビジネスに関するアドバイスをしています。

行政書士の年収

行政書士の年収は、働き方によって異なります。行政書士事務所に勤務している人、一般企業の法務部門に勤務している人、独立開業している人など、働き方はさまざま。

まず、行政書士事務所に勤務している場合、事務所の規模や仕事量、特化している業界などによっても年収は変わってきます。事務所の中で営業的な役割も担うのであれば歩合給がつくこともあり、管理職になれば手当がついてさらに高収入に。成果によっては事務所の共同経営者になることで年収が飛躍的に上がる人もいるでしょう。

逆に、一般企業のような年功序列はないため、勤務年数が長かったり、年齢が高くなっても、成果が出せなければ給与は上がらないケースが多いです。

一般企業の法務、財務、総務などで働く行政書士の場合は、勤めている企業の給与体系に準じます。管理職になれば給与も上がりますし、大企業であればもともとの給与水準も高いでしょう。

行政書士として独立開業している場合、一般企業や行政書士事務所に勤務するより年収が高い傾向があります。ただし、独立して初めの年は、取引先の開拓や営業活動に時間を取られることが多く、低い報酬でスタートすることも。

独立前から準備をして取引先を獲得していれば、最初から十分に稼げる人もいます。能力のある人であれば、年収1,000万円以上という人もいるでしょう。もちろん行政書士として優秀でも、独立後に取引先を獲得できなければ、高い収入は得られません。そのため、行政書士として独立開業したとしても、年収にはばらつきがあるのです。

また、税理士や社労士などの資格を持ち、ダブルライセンスで独立開業する人もいます。税理士の資格を取得すれば、自動的に行政書士名簿への登録ができるため、税理士と兼業している人が多いです。会社の設立から顧問契約まで対応できるため、社労士と兼業する人もいます。

ダブルライセンスがあると必ず年収が上がるのではなく、個人によるスキルが大きく影響するでしょう。とはいえ、ダブルライセンスがあることで、取引先からの信用度が上がったり、対応できる業務が増えるため、さらに高い年収が稼げるようになるのです。

行政書士に求められるスキル

行政書士として活躍するためには、どのようなスキルが求められるのでしょうか。以下に詳しく紹介します。

法律の知識

行政書士として活躍するためには、法律の知識が全ての基本です。資格取得時だけでなく、行政書士として働き始めた後も学び続けなければなりません

特に法律は、時代の流れとともに新しく策定されたり、改定があったりと変化し続けます。行政書士にとって法律の知識は、仕事のベースとなる欠かせないものであり、常にアップデートし続けなければならないのです。

事務処理能力

行政書士の業務の大半は書類を扱います。そのため、高度な事務処理能力が求められるでしょう。

扱う案件の規模によっては、数百枚の書類に目を通したり、作成することも。複数の案件を平行して進めることもあるのです。スケジュールがタイトなこともありますし、申請書類の作成やチェックは正確に、公正に、丁寧に対応する必要があります。

独立開業している場合は特に、申請書類の作成や事務処理を行う件数によっては売上が上がり、報酬も上がります。逆にミスがあったり、期日に遅れたりすると重大なトラブルに発展する可能性もあり、取引先からの信頼を失くしてしまうでしょう。

そのため行政書士には、事務作業を正確にかつ迅速に行う能力が求められるのです。

営業力

行政書士は、独立開業する人の多い職種です。独立する場合、取引先顧客を自ら獲得しなければならないため、営業力が求められます。

特に開業直後は、安定した仕事がないことが多いため、ホームページやSNSを活用して宣伝したり、セミナーを開催したりと、営業活動が主な仕事になります。他にも、勉強会に参加して人脈を作ったり、効果的なチラシや看板を作ったり、商品の価値を高めるための工夫をしたりと、戦略的な営業活動も欠かせません。

そのため行政書士は、営業力があると独立して成功できる可能性が高まるのです。企業に勤める行政書士であっても、営業力があることで活躍できるフィールドは広がるでしょう。

行政書士に役立つ資格・スキル・経験

行政書士になるために必要な資格、行政書士の仕事に役立つ資格はどういったものがあるのか、以下に解説します。

行政書士国家資格

行政書士国家資格は、合格率10%前後の難関国家資格です。一方で、弁護士や司法書士、社会保険労務士などの他の士業と比較すると、取得しやすい資格と言われており、毎年多くの人が挑戦しています。

行政書士国家資格は、年齢や学歴、経歴、国籍問わず、誰でも受験可能です。試験は年一回。出題範囲は広く、記述式と択一式で構成されています。

試験内容は以下です。

行政書士の業務に関し必要な法令等

  • 憲法
  • 行政法
  • 民法
  • 商法
  • 基礎法学

行政書士の業務に関連する一般知識等

  • 政治・経済・社会
  • 情報通信・個人情報保護
  • 文章理解

もともと法律の知識のない人であっても、努力次第で合格できる資格と言えます。独学で学ぶ人もいますが、通信講座を利用する人や専門学校に通う人も。断片的な学習での合格は難しく、対策をしっかり練って学ぶ必要があるでしょう。

司法書士国家資格

行政書士と関連の深い資格に、司法書士国家資格が挙げられます。行政書士と同じく、公的機関に提出する書類の作成と申請代理が主な業務です。

司法書士は、土地や建物を売買する際に必要な不動産登記、会社の設立に必要な商業登記、裁判所、検察庁、法務局などに提出する書類の作成や手続きなどを行います。行政書士と比較すると、司法書士国家試験の方が難易度が高いです。しかし重複する科目もあるため、両方の資格に挑戦する人もいます。

また、行政書士と司法書士の両方の資格があることで、会社の設立から登記まで一連の業務が行えるようになるため、仕事の可能性が広がるでしょう。司法書士国家試験は、筆記試験と口述試験があります。受験資格はなく、年齢や学歴、国籍問わず誰でも受験可能です。

試験科目は以下の11科目。

  • 憲法
  • 民法
  • 刑法
  • 商法
  • 民事訴訟法
  • 民事執行法
  • 民事保全法
  • 司法書士法
  • 供託法
  • 不動産登記法
  • 商業登記法

合格率は5%前後の難関試験です。独学で学ぶ人もいますが、通信講座や専門学校など学びの場も充実しています。

特定行政書士資格

特定行政書士とは、行政に対して不服申し立てができる行政書士の名称。平成26年に行政書士法が改正され、新たに行政書士の職域に追加されました。行政の処分や判断に対して不服がある場合に、その違法や不当を審査させ、是正を求める手続きができる資格です。

例えば、行政書士が営業許可申請を官公署に提出したが、許可が下りなかった場合に、その処分の見直しを求めます。これまでは不服申し立てに関しては、弁護士にバトンタッチしていましたが、法改正により、資格を持つ行政書士のみ、不服申し立てができるようになったのです。

特定行政書士になるためには、都道府県単位で行われる研修に参加し、行政不服審査法の解説やその実務について学ぶ必要があります。研修を受けた後、試験に合格すると特定行政書士に認定されるのです。

他の行政書士との差別化をはかるチャンスでもあり、不服申し立てができることで業務範囲が広がるため、取得しておくと良いでしょう。

行政書士の仕事の厳しさ

行政書士の仕事において、どのような大変なことがあるのでしょうか。以下に3つのポイントを紹介します。

業務が多岐に渡る

行政書士が取り扱う書類は1万種類以上とも言われています。請け負う業務範囲も広く、作成する申請書類も、提出場所も多岐に渡るため、全てに対応するのが大変です。

全く同じ案件はなく、実務を行いながら経験・知識を積み上げていく必要があります。複数の案件を同時に進めることもありますし、書類の申請には期日もあるため、スケジュール管理も重要でしょう。

その上、独立開業していれば、経営に関する書類作成や経費の処理、営業活動に至るまで自分でやらなければなりません。そのため行政書士はやるべきことが多く、対応する業務範囲も広くて大変なのです。

学び続けなければならない

行政書士は資格を取得するまでの勉強も大変ですが、仕事を始めてからも、経験を積んでベテランと呼ばれるようになってからも、学び続けなければなりません。

行政書士にとって、試験で学ぶ知識は入門程度と言われており、実務から学ぶことが多くあります。一人前の行政書士になるためには、試験に合格した後も学び続けなければならないのです。

例えば、時代の変化に合わせて法律や条例が改正されたり、新たに策定されることもあるため、その都度、知識をアップデートする必要があります。

また、コンサルティング業務に重きを置く行政書士であれば、マーケットの状況やあらゆる業界の情報など法律以外の知識も必要です。知識や情報が古ければ、顧客からの信頼を失うことにもなりかねません。行政書士向けの研修や勉強会にも積極的に参加し学ぶ必要もあるでしょう。

これらのことから、行政書士は日々の業務を行いながらも、常にアンテナを張って情報を取得し、学び続けなければならない大変さがあるのです。

顧客を獲得しなければならない

行政書士は、資格を取得したら仕事が舞い込んでくるわけではありません。行政書士として独立開業する場合は、自ら営業活動をして顧客を獲得しなければならないのです。その上、単発の仕事が多いため、多くの顧客を獲得できなければ収入も安定しません。

独立したばかりの行政書士は、コネのある一部の人を除いて、営業活動にかなりの時間を割くことになります。コツコツと宣伝したり、人脈を作ったり、地道に足で稼ぐ営業活動をする人も。

経験が浅ければなおさら、他の行政書士と差別化するのが難しく、営業活動は厳しくなります。行政書士の能力と営業力は別物であるため、営業が好き・得意でなければ苦労することもあるでしょう。

行政書士は、自分で顧客を獲得し、収入を安定させなければならないという厳しさがあるのです。

行政書士に向いている人

行政書士に向いているのはどのような人でしょうか。以下にその特徴を解説します。

責任感のある人

行政書士には、責任感のある人が向いているでしょう。行政書士が作成する書類には、依頼者の人生を左右したり、企業の将来がかかっていたりと、責任重大なものが多くあります。

また、行政書士が扱う情報には個人情報が含まれているケースも多く、情報の取り扱いには注意が必要。コンプライアンスの観点からも、入手した情報は責任持って管理する必要があります。

行政に提出する書類に関しては、ミスは許されず、期日も厳守しなければなりません。責任持って正しい書類を期日までに提出しなければならないのです。

これらのことからも、行政書士は責任感のある人に向いている職業と言えるでしょう。

行動力のある人

行政書士は、申請手続きを行うのに官公庁に出向く機会が多いため、フットワークが軽くて行動力のある人に向いています。

他にも、最新の知識やあらゆる業界の情報が必要なため、勉強会やセミナーに参加したり、顧客獲得のための営業活動をしたり、他士業や他業種の人とのネットワーク作りも重要です。

独立開業している場合は特に、行動を起こさなければ何も始まりません。資格を取ったからといって待っていても仕事はやってこないのです。

そのため行政書士には、意欲的に行動できる人が向いていると言えるでしょう。

几帳面な人

行政書士にはマメで几帳面な人が向いています。行政書士の主な仕事は事務処理です。

それも、法人であれば会社の設立や営業許可、個人であれば相続や遺産に関することなど、非常に重要な手続きに関わる書類を扱います。誤字脱字があったり、書類が不足していたり、法律上の不備も許されません。

そのため行政書士は、事務処理能力が高いのはもちろん、マメに顧客とコミュニケーションがとれて、丁寧に几帳面に作業できる人が向いている職業と言えるでしょう。

行政書士になるには

独立開業も目指せると人気の行政書士。どのようにしたら行政書士になれるのでしょうか。以下に3つのルートを紹介します。

行政書士国家試験に合格する

行政書士になるために、最も一般的な方法は行政書士国家試験に合格することです。行政書士登録をしている人の約7割は、国家試験の合格者

試験を受けるのに年齢や学歴といった制限がないため、誰でも挑戦できます。試験に合格後、行政書士登録をすると、晴れて行政書士として働けるようになるのです。

決して簡単な試験ではありませんが、効率的に学ぶことで一回の試験で合格する人もいます。行政書士を目指す人にとっては、国家試験に合格することが1番の近道と言えるでしょう。

公務員として行政事務を経験する

公務員として行政事務に一定年数従事し、それを申請することで、行政書士として登録できます。行政書士の「特認制度」と呼ばれる制度です。

具体的には、国家公務員または地方公務員として、官庁や役所などで通算17~20年以上、行政事務に携わることで、試験を受けずに行政書士資格が取得できます。行政事務を十分に経験することで、行政書士の試験合格と同等の知識があると見なされるためです。

特認制度によって行政書士登録をする人も、全体の15%程度いると言われています。

他資格を持っている

他資格を持っていることで、行政書士の資格も自動的に取得できるルートもあります。

  • 弁護士
  • 弁理士
  • 公認会計士
  • 税理士

上記はいずれも国家資格で、行政書士より難易度が高いです。これらの資格を持つ人も、登録をすれば行政書士としての業務を行えます。

この場合、メインとなる業務を行いながら、一部行政書士に関連する業務を行っていることが多いでしょう。

行政書士のキャリアパス

行政書士のキャリアは、行政書士として登録するところからスタートします。

まず一般企業の法務部門や士業事務所に勤務する場合、組織の中で役職を持ったり、管理職になったりと、キャリアアップしていくことが考えられます。中には共同経営者まで目指す人も。税理士事務所や司法書士事務所で働く行政書士も一定数います。

一方で、行政書士は独立する人も多い職業。行政書士としての求人が少なく狭き門であるため、資格取得後すぐに独立する人も大勢います。他の行政書士事務所で経験を積んでから独立する人もいるでしょう。そして、ゆくゆくは行政書士事務所でビジネスを大きくし、経営者として成功する道もあるのです。

行政書士個人のスキルアップの面では、数多くある行政書士の業務から取り扱いのラインナップを増やすことで、業務範囲を広げていくことも考えられます。ある業界や分野に特化して、専門性を深めて、それをウリにする行政書士もいるでしょう。

また、ステップアップとして、司法書士や弁護士といった法律に関する他の資格を取得し、法律の専門家として極めていく道も考えられます。資格取得ができれば、業務範囲も広がり、独立開業して成功する可能性は大いに高まるでしょう。

ファイナンシャルプランナーや中小企業診断士といったプラスアルファの資格を取ることで、行政書士以外の業務も幅広く対応できるようキャリアアップする人もいます。

このように、私たちにとって身近な法律家である行政書士には、多種多様なキャリアパスが存在するのです。自らキャリアを選ぶためにも、知識を深めるために学び続け、他の行政書士との差別化をはかることが必要と言えるでしょう。

評判・口コミ

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