中小企業診断士の主な仕事内容
中小企業診断士の仕事内容は、働き方によって異なります。以下に、それぞれの仕事内容を詳しく解説しましょう。
企業内診断士
一般の企業に勤めながら、中小企業診断士の資格を取得して活躍する人を「企業内診断士」と言います。
中小企業診断士の約半数は企業内診断士。
中小企業診断士の知識を活かして、経営計画や採用計画の策定、予決算の管理、経営状況の分析、業務や組織の改革などを担当していることが多いです。
また、中小企業診断士の資格を取ることで、経営の知識が活かせる部門へのキャリアチェンジや、管理職へのキャリアアップ、他企業への転職を目指す人もいます。
例えば、以下のような部門であれば中小企業診断士の資格、そして知識・スキルを活かした仕事ができるでしょう。
- 経営部門
- 財務部門
- 管理部門
- 法務部門
- 人事部門
- マーケティング部門
- 営業部門
中小企業診断士の資格を取得することで、経営に関わる仕事に参画できるチャンスが生まれるのです。
コンサルティング会社に勤務
コンサルティング会社に勤務する中小企業診断士もいます。
日本の企業の99.7%が中小企業。これらの企業が抱える経営課題や戦略に関する悩みを解決できる中小企業診断士は、多くのコンサルティング会社で重宝されるでしょう。
具体的な仕事内容は、企業の経営診断・指導、経営計画の策定や評価、業務・システム改革、新規事業の立ち上げ支援、組織改変、生産性の向上などが挙げられます。
企業から相談や依頼を受け、課題・問題点を解決するためにアドバイスや指導を行います。
独立診断士
独立起業して個人事業主として活躍したり、コンサルティング会社を経営したりする中小企業診断士を「独立診断士」と言います。取引先企業の経営課題に対して指導やアドバイスを行うといった仕事内容は、コンサルティング会社に勤める中小企業診断士と同じです。
そこにプラスして、独立診断士ならではの仕事もあります。
行政機関や商工会議所などから委託されて、中小企業の経営者の相談に乗る「窓口相談」や企業を訪問してコンサルティングを行う「専門家派遣」。特定の企業の「顧問診断士」となって定期的に訪問し、経営の指導やアドバイスを行うこともあります。
他にも、経営やビジネススキルに関連する研修・セミナーで講師を務めたり、専門領域でのビジネス書やネット媒体における記事を執筆する人も。セミナーや著書を通じて、経営診断の依頼が来ることもあるため、取引顧客の獲得につながるでしょう。
中小企業診断士の年収
中小企業診断士は専門性の高い職業であり、年収も高く安定しています。
とは言え、中小企業診断士の資格を取れば誰も簡単に稼げるのではありません。もともと能力が高くて高収入の人が、キャリアアップのために中小企業診断士の資格を取るケースもあるからです。
また、中小企業診断士の働き方によっても年収は異なります。
企業内診断士の場合、資格手当が月に数万円つく企業が多いでしょう。中小企業診断士の資格があることで社内でキャリアアップしたり、昇給する可能性も。企業内で正当に評価されない、知識を活かせないと感じる場合は、中小企業診断士資格を高く評価してくれる企業に転職し、年収アップを狙うのも一つの選択肢です。
あるいは、企業に勤めながら副業として中小企業診断士の資格を活かす人もいます。例えば補助金の申請業務やセミナー講師などを単発で行うことで、副収入として5〜20万円ほど稼げるのです。
次に、中小企業診断士として独立開業する場合、年収を飛躍的にアップできる可能性があります。そのためには中小企業診断士としての実力はもちろん、経営能力や営業力も必要になるでしょう。
顧客獲得や商品・金額設定など全て自分で判断し設定する必要がありますが、企業に勤めるのとは違い、報酬は全て給与に。中には年収3,000万円を超える独立診断士もいます。
中小企業診断士に求められるスキル
生涯安定して働けるイメージのある中小企業診断士。では、どのようなスキルが求められるのでしょうか。
論理的思考力
中小企業診断士は、第一に論理的思考力が求められます。中小企業診断士は、経営者と話をする機会が多い職業。中小企業診断士の助言には、企業の将来がかかっていることが多く、感情論や感覚的な話では、経営者は納得できません。
例えば企業の経営課題を分析し、その解決方法を示す際も、具体的な数値を交えて、論理的に根拠を示す必要があります。それを伝える際にも結論から述べる、客観的事実に基づいて説明する、といったことが大前提。
そうすることで経営者は納得し、安心してアドバイスを聞き入れられるでしょう。そのため論理的思考力は、中小企業診断士にとって欠かせないスキルなのです。
決断力
中小企業診断士にとって重要なスキルに、決断力も挙げられます。
中小企業診断士の専門分野は経営に直結することであり、責任重大です。自分の助言により企業の方向性が変わることもありますし、時に大きなお金が動くこともあるでしょう。企業に苦言を呈することや、働く人の人生を変えることもあります。
それでも中小企業診断士は、その企業の課題を分析し、今後の方針や解決策を提示しなければなりません。中小企業診断士の考えがぶれていたり、曖昧であっては、企業も信頼して助言を受け入れることはできないのです。
そのため中小企業診断士には、決断力とそれを裏付ける分析力や課題発見能力、コンサルティング力が必要とされるでしょう。
俯瞰的に物事をとらえる力
中小企業診断士には、物事を俯瞰的にさまざまな角度から見るスキルが求められます。
例えば、収益が上がらない、新規事業が軌道に乗らないなどの経営課題について相談された場合。商品に問題があるのか、マーケティングや営業手法を改善した方が良いのか、人材の教育が必要なのか、さまざまな原因が考えられます。複数の要因が重なって問題が複雑化している可能性もあるのです。
このような場合、課題の一つの側面だけを見て診断するのではなく、物事を俯瞰的に見る、多面的な角度から解決策を考案する必要があります。
そのため中小企業診断士は、一つの事象に対して俯瞰的な視点で眺め、問題の全体像を捉えるスキルが求められるでしょう。
中小企業診断士に役立つ資格・スキル・経験
中小企業診断士として活躍するために必要な資格、活かせる資格はどんなものがあるのでしょうか。
中小企業診断士国家資格
中小企業診断士は、経営コンサルタントとして唯一の国家資格です。資格取得には、企業経営理論、会計財務、マーケティング論など経営全般の知識と、経営に関わる問題を解決できるコンサルティング能力が問われます。年齢や学歴、経験問わず誰でも受験可能。
中小企業診断士の国家資格に合格するためには、1,000時間以上の勉強が必要と言われており、非常に難易度の高い資格です。合格率は約5%程度。
一次試験は以下の7科目(マークシート方式)。
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・政策
二次試験には受験資格があり、以下の3つのうち1つを満たす必要があります。
- 二次試験受験の年の一次試験に合格
- 二次試験受験年の前年の一次試験に合格
- 平成12年度以前の中小企業診断士一次試験に合格
二次試験の内容は、筆記試験と口述試験に分かれています。筆記試験は以下の事例に対する設問の答えを記述する形式です。
- 組織・人事の事例
- マーケティングの事例
- 生産技術の事例
- 財務・会計の事例
口述試験は、二次試験の筆記試験で出題された事例に対する質問に、口頭で答えます。口述試験の合格率は高く、落ち着いて答えれば合格できる試験と言えるでしょう。
口述試験に合格後、実務補習を修了すると、中小企業診断士として正式に登録できます。
ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定とは、東京商工会議所が主催する、ビジネスに関する法律知識を学ぶことを目的とした検定です。ビジネスにおいて必要な法律について学べるため、中小企業診断士の仕事にも活かせるでしょう。
あらゆる業界・業種において、取引先との契約、労働基準法に基づいた雇用契約など、正しい法律知識が必要になる場面は多々あります。法律知識を持つ人材が社内にいることで、さまざまなリスクや不利益を回避できるのです。
ビジネス実務法務検定3級は、ビジネスにおける最低限の法律知識を有することの証明となり、2級は、中小企業診断士1次試験「経営法務」に関連が深く、管理職や管理職候補向け。1級になると難易度も非常に高く、社会保険労務士試験に匹敵すると言われています。
試験形式は、3級・2級はマークシート方式、1級は論述式。3級・2級については、受験資格は特にありません。1級に関しては2級の合格者のみ受験可能です。
日商簿記検定
日商簿記検定とは、簿記の技能を測る検定試験です。簿記を学ぶことで経営におけるお金の流れが分かるようになったり、決算書が読み解けるようになったり、コスト管理ができるようになります。
中小企業診断士の仕事に必要な会計知識が身につくでしょう。就職・転職にも有利とあって多くの人が受験しており、簿記検定の中でも受験者数は最大級。受験資格はなく、誰でも受験できます。
3級は経理の基本知識が問われ、経理関連書類の適切な処理ができるレベル。
2級は財務諸表が読めるようになるため、企業の経営状況が分かるようになります。日商簿記2級で問われる内容は、中小企業診断士の1次試験科目「財務・会計」科目にも活かせるでしょう。
1級は経営者の視点で管理・分析ができるレベル。難易度も高く、合格すれば税理士試験の受験資格が得られるため、就職や転職でも高い評価が得られます。
中小企業診断士の仕事の厳しさ
中小企業診断士の仕事をする上で、大変なこと、つらいことはあるのでしょうか。以下に詳しく解説します。
資格より実績を求められる
中小企業診断士は、医師や弁護士のような独占業務がありません。資格がなくても経営コンサルタントの仕事はできますし、実際に無資格で活躍している経営コンサルタントは大勢います。
難関の中小企業診断士試験をやっとの思いで突破して資格を取得しても、それだけで仕事に結びつくわけではないのです。資格よりも実績や経験を求められるケースも多いでしょう。
中小企業診断士にとって資格や知識はもちろん大切ですが、実績を積み上げることでしか身につかないコンサルティングスキルが重要視されるという厳しさがあるのです。
簡単に独立できるわけではない
中小企業診断士の資格を取得したら、すぐに独立開業したい、と考えている人も多いでしょう。しかし実態は、資格を取得したからといって、簡単に独立できるわけではありません。
中小企業診断士としての知識とスキルがあっても、独立して顧客を獲得する営業力はまた別物。独立するということは、中小企業診断士の仕事をするのに加えて営業や宣伝、事務所の運営・維持も必要なのです。
また、それらの能力を併せ持っているとしても、独立後に軌道に乗せるまではやはり大変。中小企業診断士に依頼する仕事は経営に直接関わる重大な内容が多く、顧客から信頼を得て経営診断を任せてもらうためには、相当な努力と期間が必要なのです。
課題解決できないこともある
中小企業診断士が関わる企業は、基本的に何かしら課題や問題を抱えています。中小企業診断士が課題解決のサポートをしたとしても、解決できないこともあるのです。
クライアント企業は、事業がうまくいかなくなったり、資金が足りなくなって切羽詰まっていたり、経営面に課題があるからこそ中小企業診断士に依頼して解決を試みます。それでも解決に至らず、事業撤退する、企業自体が倒産することも。基本的に業績好調で勢いのある企業が相談してくることは少ないのです。
中小企業診断士が経営のサポートをしても、どうにもならないこともあります。その時は力不足と感じたり、やるせない思いになることもあるでしょう。
中小企業診断士に向いている人
中小企業診断士は難関試験であるにもかかわらず、ビジネスマンに人気の資格です。では中小企業診断士とは、どのような人に向いている仕事なのでしょうか。
数字に強い人
中小企業診断士には、数字を見る力が必要です。経営課題の改善や事業の再生、資金調達といったサポートをするためには、決算書類を読み解いてお金の流れを見ることからスタートします。
全ての事象は数値化が可能なため、中小企業診断士はあらゆる数字を見て課題を分析し、さまざまな判断を下すのです。
そのため中小企業診断士には、大前提として数字を見るのが好きな人、数字に強い人に向いている職業と言えるでしょう。
学び続けられる人
中小企業診断士には、資格取得がゴールでなく、そこからも学び続けられる人が向いています。
中小企業診断士は企業のかかりつけ医のような存在。経営課題を分析して解決策を提示するためには、日々の義務から学ぶのはもちろん、競合や市場の情報、社会情勢の変化や法令改正などの情報は日々アップデートしなければなりません。
業界に特化した専門的な知識があれば、より核心に迫るコンサルティングができ、幅広い業界を扱うのであれば、さまざまな業界の知識やノウハウを蓄積する必要があります。
経営者と対等に会話をし、納得させるだけの根拠を示すためにも、中小企業診断士は向上心を持って学び続けられる人が向いているのです。
人を支えるのが好きな人
中小企業診断士は、人の役に立ちたい、人を支えるのが好きという人に向いている職業です。
中小企業診断士の主な仕事は、企業の課題を解決することであり、経営者を支えること。自分自身が主役ではなく、あくまで裏方として企業を支えることに徹します。
自分が提案した解決策がうまくいき、企業が大きく成長したとしても、世間に評価されるのは中小企業診断士ではなく、経営者であり企業なのです。
そのため中小企業診断士は、企業や経営者を支えることで事業が成功したり、経営者に感謝されたりすることに、達成感や喜びを感じられることが重要でしょう。
中小企業診断士になるには
中小企業診断士になるためには、どうしたら良いのでしょうか。中小企業診断士を目指す人のために、以下に詳しく解説します。
中小企業診断士国家試験に合格する
中小企業診断士として活躍するためには、まず中小企業診断士国家試験に合格しなければなりません。
一次試験は、中小企業診断士として必要な知識を有しているかどうかを判定し、二次試験はより実践的な応用力を有しているかを判定します。
年齢や学歴、経験は問わないため、学生のうちにチャレンジする人もいるでしょう。働きながら通信講座を利用して勉強する人や、専門学校に通う人も。中小企業診断士は、誰でも何歳からでも挑戦できる資格なのです。
実務補習を受ける
中小企業診断士国家資格の一次試験および二次試験に合格した後、15日間の実務補習を受けます。
受講者6名以内で一つのグループを作り、指導員の指示のもと、実際に企業に対して経営診断・助言を実施。3企業に対して、診断、分析、報告書の作成、報告会を行うといった内容です。合否のある試験ではありません。
もしくは、すでに実務についている場合は、15日以上の経営診断・助言の実務を行うことで補習は免除されます。
中小企業診断士として登録する
中小企業診断士の国家試験に合格し、実務補習を修了した後は、中小企業診断士として登録します。申請の日から3年以内に二次試験に合格しており、所定の実務補習の修了または実務に従事していることが必要です。
中小企業診断士の登録有効期間は5年間。登録を更新するためには、5年間の有効期間内に知識の補充や実務に従事しなければなりません。
中小企業診断士のキャリアパス
難関試験を突破し、晴れて中小企業診断士の資格を取得した後、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか。
まず企業に勤めている場合、中小企業診断士の知識が活かせる部門へステップアップすることが考えられます。経営企画や人事、財務、生産管理などさまざまな部門で活躍できるでしょう。補助金や融資の手続きなど、経営に直接関わる貢献ができれば、経営者の右腕として重宝されることも。
企業で働きながら副業として中小企業診断士の資格や知識を活かす人もいます。補助金・助成金の申請サポートや研修・セミナー講師、ブログの運営といった副業が考えられるでしょう。
コンサルティング会社へ就職・転職するのも一つの選択肢です。コンサルティング会社には資格がなくても実務経験豊富なコンサルタントが多数いるため、競争も激しく求められるレベルも高くなりますが、やりがいも十分。
また、中小企業診断士の約半数は独立しています。独立することで、どういった仕事をするか、どのように働くか、自由に選択可能です。ある業界に特化してコンサルティングするのか、コンサルティング会社を経営するのか、セミナーや執筆活動を行うのか、さまざまな選択肢があります。
顧客獲得から事務作業まで自分でやらなければならないという大変さも伴いますが、自由度が高く、成功すればかなりの高収入も見込めるでしょう。
このように中小企業診断士とは、積極的に挑戦することで、さまざまなフィールドで、さまざまな活躍ができる仕事。
ただし、全ての選択に共通して言えるのは、資格や肩書だけに頼らず、できるだけ多くの実績を積むことが大切。そうすることで、より可能性が広がる職業と言えるでしょう。